
この記事の結論
ひとり情シスが辞めるときに困るのは、パソコンの操作よりも、管理者の権限と契約の情報が1人の手元から消えることです。退職が決まったら、まず権限を会社に戻し、次に一覧と手順書をつくり、最後に窓口を切り替えます。
- 決まった週に、Microsoft 365・ドメイン・ルーターへ会社として入れるようにする
- 引き継ぐのは、アカウントと権限・ドメイン・契約・機器・台帳・手順書の6つ
- 外に頼むなら、担当が辞める前に窓口を同席させる
IT担当が来月で辞める。何を引き継げばいいのか分からない…
退職で止まるのは、管理者の権限と契約の情報です
社員のパソコンの困りごとは、外に頼めばその日から受けてもらえます。代わりがきかないのは、担当1人だけが知っている管理画面のパスワード、更新の知らせが届くメールアドレス、機器のつながり方です。

管理画面に入れない
Microsoft 365 を契約した人は、既定で全体管理者(グローバル管理者)になります。担当だけが管理者だと、辞めた後は社員のアカウントの停止もパスワードのリセットもできません。

多要素認証が担当のスマホにある
Microsoft 365 管理センターへのサインインは、2025年2月から順に多要素認証が必須になりました。パスワードを教わっても、認証アプリが担当の私物のスマホにあれば入れません。

更新の知らせが届かない
ドメインや証明書、ウイルス対策の更新の知らせが担当のメールに届いていると、辞めた後は期限切れに気づけません。請求の届け先が担当個人になっていることもあります。

構成を知る人がいない
どの機器がどこにつながり、保守はどの業者か。分かる人がいないと、ネットワークが止まったときに、まず調べ直すところから始まります。
ドメインは特に注意が要ります。JPRS(.jp のドメイン名の登録管理をする会社)は、更新の期限を過ぎるとドメイン名が意図せず廃止されることがあり、廃止から一定の期間が過ぎると第三者が登録できるようになると説明しています。
メールに使っていたドメインなら、同じアドレスでなりすましメールを送られるおそれがあります。IPA の「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版も、機器やソフトウェアの情報を整理して管理の属人化を避けることを求めています。
退職が決まった週から、5つの段階で引き継ぎます
順番の基本は、権限が先で、資料が後です。Microsoft は、緊急用の管理者アカウントが要る場面の1つに、全体管理者の権限を持つ人が組織を離れることを挙げています。
- 決まった週
管理者の権限を会社に戻す
全体管理者の一覧をつくり、緊急用の管理者アカウントを会社で持つ。ドメインとルーターの管理画面にも、会社として入れるかを確かめる。
- 1か月前まで
6つの一覧と手順書をつくる
担当が書き、会社の共有の場所に置く。パスワードは一覧に直接書かず、会社で決めた方法で保管する。
- 最後の2週間
後任と同じ画面で確かめる
後任か外の窓口が、一覧を見ながら実際に管理画面に入り、アカウントの作成やパスワードのリセットをやってみる。
- 最後の出社日
本人のアカウントを止め、パスワードを変える
担当が知っている管理者のパスワードを変え、パソコン・スマホ・鍵・セキュリティキーを返してもらう。
- 退職の後1か月
抜けを拾う
届かなくなった更新や請求の知らせ、止まった自動の処理がないかを確かめる。
最後の出社日までが短いときも、1番目だけは最初の数日で済ませます。体調などで、担当が急に出社できなくなることもあるからです。IPA のガイドラインも、退職のときに機器・ID・鍵などを回収し、チェックリストで実行を確かめるよう勧めています。
2番目でつくる6つの一覧の中身は、次のとおりです。パソコンの台帳の項目は、パソコン台帳の記事で8つにまとめています。

1 管理者アカウントと権限
Microsoft 365、Google Workspace、会計や給与のクラウド、ウイルス対策の管理画面。誰がどの権限を持ち、多要素認証をどの端末に登録しているかまで書きます。

2 ドメインと DNS
ドメインの登録事業者と DNS の管理先は、別の会社のこともあります。両方のログイン ID、登録者の名義、更新日と支払い方法、知らせが届くメールアドレスを書きます。

3 契約と更新日
回線とプロバイダー、Microsoft 365、ウイルス対策、複合機やサーバーの保守。契約の名義、更新日、自動更新か、解約を申し出る期限、請求の届け先を並べます。

4 ネットワーク機器と保守の連絡先
ルーター、UTM、スイッチ、無線の親機の管理画面と設定の控え、保守の業者と契約番号。どの機器がどこにつながるかのネットワーク図も一緒に残します。

5 パソコンとソフトの台帳
誰がどのパソコンを使い、どのソフトが何本入っているか。サポートの切れた Windows や Office が残っていないかも、この台帳で数えます。

6 手順書
入社と退職のアカウントの作成と停止、パスワードのリセット、バックアップの確かめ方、障害のときの連絡の順番。どの画面で何を押すかまで書きます。
受け取ったパスワードは必ず変える
一覧で受け取ったパスワードは、辞める担当も知っています。担当の個人のメールアドレスや私物のスマホに結びついた登録も残ります。どちらも最後の出社日までに、後任の手で会社のものへ替えます。
最後の出社日は、本人のアカウントを順番どおりに止めます
IT担当のメールには、業者からの更新や請求の知らせが届いています。アカウントを止める前に、各サービスに登録した連絡先を、会社の共有のメールアドレスに替えておきます。
Microsoft は、辞めた社員の Microsoft 365 のアカウントを、次の順番で扱う手順を示しています(2026年10月時点の Microsoft Learn)。
- Microsoft 365 にサインインできないようにする
- メールボックスの内容を保存する
- スマホやタブレットから会社のデータを消し、つながらないようにする
- メールを別の社員に転送するか、共有メールボックスに変える
- OneDrive と Outlook のデータを、別の社員が見られるようにする
- ライセンスを外す
- ユーザーアカウントを削除する
アカウントを削除しても、OneDrive と Outlook の内容は30日間保持され、その間はアカウントを戻せます。管理センターでの操作は、解説動画の第16回で説明しています。
管理者の権限は1人に持たせず、緊急用の管理者アカウントを会社で持ちます
Microsoft は、全体管理者をできるだけ少なくし、作業に必要な最小限の役割を割り当てることを勧めています。パスワードのリセットだけを頼むなら、全体管理者ではなくパスワード管理者を、という例を挙げています。


担当が1人で持っている形
- 管理者のパスワードを知るのは担当だけ
- 共有の管理者アカウントを何人かで使い回す
- 外の業者も、同じアカウントで入る




辞めても会社が入れる形
- 全体管理者は少なく、人ごとのアカウントで
- 緊急用の管理者は、特定の個人に結びつけない
- 担当が替わったら、緊急用で入れるかを試す
IPA のガイドラインも、共有の ID はなるべく使わず、ID の発行から削除までの手続きを決めること、特定の人に権限が集中しないようにすることを挙げています。
緊急用の管理者アカウントは、Microsoft の示す5つの条件でつくります
- 2つ以上つくる1つが使えなくなっても入れるように、2つ以上を用意します。
- クラウド専用にする会社のドメインではなく、onmicrosoft.com のアドレスのアカウントにします。
- 個人に結びつけない特定の社員の名前にせず、社員の私物のスマホにもつなぎません。
- パスキーで入るFIDO2 のセキュリティキーなどで多要素認証を満たし、決めた安全な場所に保管します。
- 定期的に試す少なくとも90日ごとと、IT担当の退職や異動のときに、サインインできるかを確かめます。
セキュリティキーの置き場と、それを使える人の一覧は、IT担当ではなく、社長か総務の方が持ちます。
いまの全体管理者は、管理センターの「ロール」で確かめます
管理センターの「管理者リストのエクスポート」を使うと、すべての管理者の一覧を CSV で取り出せます。辞める担当のほかに、前に辞めた人や、取引の終わった業者の名前が残っていないかも見ます。
外に頼むなら、担当が辞める前に窓口を同席させます
後任を社内で採らずに外の窓口へ切り替えるなら、いちばん大事なのは時期です。担当がいるうちに引き継げば、一覧に書けなかった設定の経緯も、その場で聞けます。
- 任せる範囲を決める毎日の対応は任せ、予算と承認は社内に残す。窓口は契約前に確かめる9項目で選ぶ
- 一覧を渡す6つの一覧と手順書を渡し、足りない所を挙げてもらう
- 同席して確かめる最後の出社日の前に、担当と外の窓口が同じ管理画面に入る
- 権限を分けて渡す外の窓口には、必要な役割だけを、誰が使うか分かるアカウントで。緊急用の管理者は社内に残す
- 社員に知らせる困ったときの連絡先が変わる日と電話番号を、全社員に伝える
- 1か月後に見直す届かなくなった知らせや、止まった処理がないかを、窓口と一緒に確かめる
辞めた後に探すと、調査から始まる
担当が辞めた後では、管理画面に入れるか、どの機器がどこにあるかを、外の窓口が一から調べることになります。退職が決まった時点で、外に頼むかどうかも決めます。
外に任せても、社内で承認する人は要ります。IPA の付録「中小企業のためのセキュリティ人材の確保・育成の実践ガイドブック」は、兼務でもセキュリティの担当者を1人は確保し、社内だけで難しい対策は外部の専門家に相談するよう勧めています。
インフィニティにできること
インフィニティは2008年に設立した、名古屋・丸の内の会社です。サポート契約は280社強あります。ITサポート「ササエル」には、詳しい社員が辞めてしまった、パソコンのことを聞ける人が社内にいない、という会社からもご相談をいただきます。


ITサポート(ササエル)
- 社員のみなさんが、担当の方を通さず直接電話できます
- 許可をいただいて遠隔操作し、その場での解決をめざします
- 平日の夜と休日も、当番のスタッフが電話を受けます
- 解約のときは、管理者のパスワードと設定の資料をお返ししています


IT見えるBOX
- 機器台帳・ネットワーク図・IT健康診断書ができます
- 退職予定日を入れると、返してもらう機器と止めるアカウントの一覧ができます
- 契約とクラウドの終了日を入れると、お知らせに出ます
- 台帳と地図は貴社のもので、解約されてもお渡しします
IT見えるBOXは読むだけの箱で、アカウントを止める作業そのものは、各サービスの管理画面で行います。ほかの会社が入れた機器は、まず現状をお聞きし、環境を把握してから、対応できる範囲をお伝えします。
訪問は愛知・岐阜・三重と大阪、遠隔は全国です。月ごとの報告は、希望される会社にお出ししています。3つの段のうち強固にする段では、毎月の打ち合わせで貴社に担当者を育て、外の私たちと中の担当の方の両輪で改善を続けます。
詳しい社員が辞めてしまった、というご相談もいただいています
担当の方がいるうちに、いまの状態をお聞きします
ご相談は無料です。担当の方が辞める時期と、いま担当の方がしている作業を、分かる範囲でお知らせください。機器の名前や台数が分からなくても大丈夫です。2営業日以内にご連絡します。
無料で相談する参考
- Microsoft Learn 緊急アクセス用管理者アカウントを管理する
- Microsoft Learn Microsoft 365 管理センターの管理者ロールについて
- Microsoft Learn Microsoft 365 管理センターで管理者ロールを割り当てる
- Microsoft Learn 必須の Microsoft Entra 多要素認証(MFA)を計画する
- Microsoft Learn 元従業員を削除する
- Microsoft Learn ドメイン レジストラーと DNS ホスティング プロバイダーを見つける
- IPA 中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン(第4.0版)
- IPA 付録1 中小企業のためのセキュリティ人材の確保・育成の実践ガイドブック
- JPRS ドメイン名の廃止に関する注意

